私たちは”楽しい”をデザインする

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カフェドゥーナッツ／まるカフェ／代表小林なおきさん

1970年、山梨県甲府市に生まれる。幼い頃、兄が描いた車の絵に悔しさを覚え、「自分も負けたくない」と夢中で描き始めたことが、絵やデザインの道を志すきっかけとなった。小学生のころの将来の夢は、絵を描く仕事に就くこと。その一方で、少年野球にも熱中し、厳しい練習を通じて根性を鍛えられた。中学校に進学すると野球部に入部するが、三年生に上がる際、顧問の交代によって「丸坊主にすること」という規則が課され、退部を決意する。そこで改めてのめり込んだのが音楽だった。中学一年の頃から、兄の影響ではじめたドラムに楽しさを感じており、吹奏楽部に入部して打楽器を担当。さらに高校でも吹奏楽部で演奏し、同時に趣味のバンド活動でもドラムを叩いた。仲間と音を合わせ、ひとつの音楽を作り上げる瞬間の高揚感は、のちの「チームで表現を生み出す喜び」につながっていく。卒業を控え、音楽の道に進むかデザインの道に進むかで迷ったが、父から「音楽で飯を食えるわけがないだろう」と言われ、デザインの道を選ぶ決心をした。

阿佐ヶ谷美術専門学校インテリアデザイン科を卒業後、新宿の建築設計事務所に勤務。都内のジャズライブハウスの家具デザインなどを手掛け、夜通し埼玉のラボに確認へ通う日々を送った。しかしその帰り道、交通事故に遭い骨折。やむなく山梨に帰郷することとなった。療養を経て父が営む建築業を手伝った後、花屋で働き、さらに県内のデザイン事務所に就職。岡島百貨店や地元企業の広告デザインを担当し、デザインの現場で多様な経験を積んだ。その後、独立してデザイン事務所「インサイト」を立ち上げる。活動の幅は広告にとどまらず、当時知り合ったカメラマンからの誘いを受け、結婚式場の立ち上げに携わることになり、別会社の専務取締役として8年間勤務。空間デザインや広告制作、集客の仕組みづくりなどに深く関わり、実務力を大きく磨いた時期だった。

2007年、ついに自身の会社「株式会社バズ」を創業。商業広告を中心に、県内外の広告デザインを手掛けるようになる。企画からデザイン、スチール撮影、映像撮影・編集までをワンストップで行える体制を整え、数々の企業や店舗のブランディングに関わってきた。広告は単なる見栄えではなく、「人を動かすための仕掛け」であるという信念のもと、表現を磨き続けている。クライアントの思いをどうすればより多くの人に伝えられるか、どうすれば商品やサービスが輝いて見えるかを探りながら、一つひとつの案件に真摯に向き合ってきた。

しかし時代は変わり、コロナ禍を経て、従来の広告事業だけでは見えない未来を感じるようになった。社会の価値観や生活様式が大きく変わるなかで、自らも変化に応える必要があると考えた。そこで新しい挑戦として立ち上げたのが飲食サービス業である。2024年、甲府市にドーナツショップ「cafe Do!nats」を開業。さらに同年、岡島百貨店地下に「まるカフェ」をオープンさせた。デザインを軸に培った「人を笑顔にする仕掛け」を、今度は「食」という形で提供している。カフェの空間やメニュー開発にもデザイン的な視点を活かし、訪れる人々が自然と笑顔になれるような工夫を散りばめた。

広告も飲食も、一見異なる分野のように思える。しかし、根底にあるのは「楽しいをデザインする」という共通の理念だ。美味しいコーヒーやドーナツを囲んで生まれる笑顔も、鮮やかな広告のビジュアルで心を動かされる瞬間も、どちらも人々の毎日に彩りを添える体験である。その“瞬間”をつくることこそが、自分の使命だと信じている。

これまでの歩みは決して順風満帆ではなかった。怪我や挫折、転機の連続。しかしその都度、自分の中にある「表現したい」「楽しいを届けたい」という気持ちが原動力となり、新しい挑戦へと背中を押してきた。株式会社バズの広告事業、そして飲食事業の二本柱を通じて、これからも「楽しい」を形にする仕事を続けていく。

小林なおき（Naoki Kobayashi）プロフィール

1970年、山梨県甲府市出身。甲府西高、阿佐ヶ谷美術専門学校インテリアデザイン科卒業後、都内の建築設計事務所、県内のフラワーショップ、グラフィックデザイン事務所を経て、2007年に株式会社バズを創業。商業広告を中心に県内外の広告デザインを手掛けている。現在は、飲食サービス業を立ち上げ、2店舗を運営している。