2026 Tue.

10

# NOVEL

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2026.Feb.10

一緒にいたいから、一緒にいる

一緒にいたいから、一緒にいる

彼のハナシ

8歳上の彼と付き合って12年が経つ。彼には軽度の知的障害があり、私たちはいわゆる障害者同士のカップルだ。

 彼とは、職業訓練施設で出会った。当時、私はまだ成人式を迎えたばかり。ある訓練で偶然隣の席になった。『よろしくおねがいします』と挨拶する私に、

「こんな可愛い子が隣にいると困っちゃうナァ」

と、彼は少し照れたように笑った。他人に好意を持つことはあっても、こうして最初から好意を持たれたのは初めてだった。それも、初対面から素面でこんな軽口を言う人に出会ったこともなかった。

まさか、人見知りが本気で考えた渾身の口説き文句だったなんて。正直、『どうせ、誰にでも言っているんでしょ』くらいにしか考えてなかった。

過去それなりに恋愛経験があったものの。ここまで無条件に好意を向けられたことはなく。『まあ、好いてくれるなら』と安易な気持ちで私たちの付き合いはスタートした。

当初、1年と保たないだろうと思っていたこの関係は、1年、また1年と期間が延びていき、気がついたらこんなに長い時間が経っていた。

もっと知りたい

彼と私は互いに異なった価値観と常識を持っている。とくに彼は、バブル時代の男性像に憧れがあるようで、まるでトレンディドラマを見ているかのような立ち振舞に戸惑うことも多かった。

さいわい、「隠し事はナシね」なんて約束しなくてもなんでも話してくれたから、会話の中で腹の探り合いをすることは少なかったけれど。真面目な口調で冗談も言うから、どこまでを信じたら良いのか判断に困ることも少なくなかった。

結局は、恋愛も人間関係。言わなくても気持ちが通じるなんてファンタジーが本当にあったらいいけど。

実際は、相手の意図を汲んだり、何度も価値観をすり合わせたりと、わりと地味で泥臭いことを繰り返している。とくに私はこだわりが強い特性があるから、自分の発言に返事がないと無視されたのではと不安で仕方がなくなる。これだけ長く付き合っていても、話しが噛み合わなくて気まずくなることなんてしょっちゅうある。

それでも関係が続いているのは、ひとえに彼が私のことを私以上に好きでいてくれたからだ。私はただその好意に応えようとしただけに過ぎない。 今でも「好き」を伝え続けてくれる彼には、本当感謝しかないと思っている。

一緒にいたいから、一緒にいよう

思うと、彼のストレートな愛情表現は、私の「言葉どおりに意味を受け取る」という特性と相性が良かったのかもしれない。

この頃は関係も落ち着いてきたからか話しも弾むようになり、ますます一緒にいるのが楽しくなった。誰かと一緒にいて心から笑える日が来るなんて。付き合う以前を考えると、今でも信じられない。

手探りでお互いを知っていくなんて、それこそみんながやっている。誰でも、はじめは初対面。案外恋愛もほかの人間関係とそう変わらないんだと思う。

「一緒にいたい」って一番シンプルだけど強力な言葉だと思う。その理由だけで、12年という時間を一緒に過ごせているのだから。そして、これからも、それは変わらないのだ。

HN:ながみね

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CULTURE
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